5. 受診前の準備

登場人物
亜美乃さん
36歳、1児のママ。最近よく目にする「ゲノム」について知りたい。本人は高血圧症の持病がある。3歳の息子は筋ジストロフィーの疑いと言われており、先日、母親が乳がんと診断された。
玄務(げのむ)先生
ゲノム医療に詳しいお医者さん

ゲノム医療について詳しく知ることができて、私もゲノム医療を受けてみたいと思いました。
受診するときには、どんな準備をすれば良いですか?

適切なゲノム医療を受けるためには、受診動機の確認、家系情報の整理、かかりつけ医からの情報提供の3つのポイントがあります。順番に説明しましょう。

受診動機の確認

ゲノム医療を受診する動機は、人によって様々です。例えば、ある病気をすでに発症している患者さん(既発症者)が、「自分の病気の原因をはっきり知りたい」とか、「今後の経過の見通しや治療方針を知りたい」などの理由でゲノムの検査を希望する場合もあれば、「自分のゲノム情報を家族と共有し、未発症の家族の健康管理にも活かしてほしい」という思いから希望する場合もあります。
一方、既発症者ではなくご家族が「自分は既発症者と同じゲノムの変化をもっているのだろうか」、「将来、同じ病気を発症するのだろうか」という不安から、あるいは「今後の健康管理に活かしたい」という前向きの要望から、受診することもあります。さらに、就職や結婚、子供をもうけるといったライフイベントをきっかけとして、ゲノム医療を受診する人もいます。
あなた自身が既発症者なのか、血縁者なのか、そして何を目的としているのかによって提供される医療は異なります。受診前にもう一度受診の動機を整理し、確認しておくことが重要です。

家系情報の整理

ゲノム情報は血縁者と共有されるという特性から、遺伝性疾患は同一家系に集積する傾向が見られます。そのため、ゲノム医療の遺伝カウンセリングでは、診療を受ける人(受診者)本人のことだけでなく、家族構成、血縁者の病歴や症状の有無なども詳細に聴取して家系図を作成します。特に単一遺伝子疾患では、家系図は受診者の病気の診断の補助、ゲノムの変化を共有する可能性がある血縁者の抽出、ゲノム情報の共有の割合や再発率の算定などに役立ちます。受診を希望する場合は、受診する前に家系情報を整理しておきましょう。遺伝カウンセリング時の家系図の確認作業がスムーズに進みます。

家系図の例
家系図に用いられる記号
この家系図から読み解けることの例
乳がんを発症した38歳の女性(III-3)が遺伝カウンセリング(遺伝学的検査)を希望して病院を受診した。この女性の母方の祖母(I-4)と母親(II-8)は乳がんによって、それぞれ51歳と55歳で亡くなっている。

かかりつけ医からの情報提供

既発症者を対象としたゲノムの検査は、病気の確定診断をおもな目的として実施されます。検査前には、受診者本人が、過去にどのような病気にかかったか(既往歴)、現在どのような症状を示しているか(現病歴)などの医療情報をきちんと把握したうえで、検査の対象とする疾患と原因遺伝子を絞り込む必要があります。そのため、かかりつけ医からの診療情報提供が重要です。なお、既発症者の血縁者が発症前診断としてゲノムの検査を希望する場合には、原則、既発症者の検査結果が必要となります。
ゲノム医療の受診に至るまでの背景や目的は一人ひとり異なります。あなたの検査が他の家系員に影響する可能性もあります。このため、ゲノム医療の専門家(臨床遺伝専門医および認定遺伝カウンセラー®)は、ゲノム情報を慎重に取り扱い、あなたが適切なゲノム医療を受けられるようにバックアップしていきます。

受診を希望される皆さまへ

ゲノム医療を受診できる場所として、当院を含む多くの医療機関に遺伝子診療部門が設置されています。また、日本人類遺伝学会のホームページにある全国臨床遺伝専門医・指導医・指導責任医一覧*や、全国遺伝子診療部門連絡会議のホームページの維持機関会員施設名簿*等から、関連情報を入手できます。ゲノム医療の受診を希望される場合は、かかりつけ医にご相談の上、こうした医療機関・専門医の受診をご検討ください。

*全国臨床遺伝専門医・指導医・指導責任医一覧 http://www.jbmg.jp/list/senmon.html (閲覧日:2020年4月28日)
*全国遺伝子医療部門連絡会議 維持機関会員施設名簿 http://www.idenshiiryoubumon.org/list/index.html (閲覧日:2020年4月28日)