4. ゲノム医療の実際
- 亜美乃さん
- 36歳、1児のママ。最近よく目にする「ゲノム」について知りたい。本人は高血圧症の持病がある。3歳の息子は筋ジストロフィーの疑いと言われており、先日、母親が乳がんと診断された。
- 玄務(げのむ)先生
- ゲノム医療に詳しいお医者さん
患者さんの病気がゲノム医療の対象となるのは、「ゲノムの変化」と「病気」の関係が強い場合のみです。その見極めのために重要なのは、一般診療における臨床診断です。また、ゲノム情報を医療に生かすためにはかかりつけの先生とゲノム医療の先生の間の連携が大切です。
ゲノム医療の流れ
ゲノム医療は、「ゲノムの変化」と「病気」の関係に基づいて効率的・効果的に診断や治療を行うものです。ですから、「ゲノムの変化」と「病気」の関係が強い場合にのみゲノム医療の対象となります。一般診療での診察で、臨床検査などから、病気の原因としてゲノムの変化が特に疑われる場合、ゲノム医療が紹介されることになります。
紹介を受けたゲノム医療の側は、まず、患者さんに遺伝カウンセリングを提供して遺伝性疾患への理解を深めていただきます。そして、患者さんがゲノムの検査を希望し、検査を受けた場合は、その結果に基づいて治療や予防の方針を決定します。ゲノム医療の担当医は、治療や予防を行う関連診療科の担当医ともゲノム情報を共有しつつ、適切なゲノム医療を継続的に提供できる体制を整えます。一方、一般診療の担当医には、遺伝カウンセリングやゲノムの検査の結果や、ゲノム情報に基づく継続的医療の方針などを伝え、日常の診療に役立てていただきます。
ゲノムの変化による病気の特徴は、年齢とともに様々な臓器、組織に合併症が出現しうることです。合併症の起こりやすさ、起こりやすい年齢、合併症の程度などは病気によって異なりますが、ゲノムの検査により併発しやすい病気を予測できる場合には、適切な健康管理や予防、早期治療へとつながります。
様々な臓器、組織に出現する合併症に対応するには、様々な診療科の連携が必要となります。小児期の患者さんについては、小児科(小児内科)が中心となり、(小児)外科、眼科、耳鼻科、整形外科などの診療科が協働で治療にあたる場合が多いようです。
一方、成人期の患者さんの場合、小児期の小児科に相当する窓口を決めづらくなります。病気の種類や病状によって、患者さんごとに関与する診療科が大きく異なり、また、総合病院では内科が臓器別(循環器内科、呼吸器内科、消化器内科、内分泌代謝科など)に細分化しているからです。そのため、専門医療機関とは別に、地域の診療所にかかりつけ医をもち、様々な臓器にわたる症状に対して診療をしてもらいながら、症状が重度な場合には、専門医療機関を受診するなどの対応が必要になります。
ゲノムの変化は不変ですが、症状は年齢や治療により変化するため、治療や予防を担当する関連診療科や担当医も変わっていく可能性があります。患者さんが生涯にわたり適切なゲノム医療を受け、子孫や血縁者の健康管理などに生かしていくためにも、ゲノムの検査結果は大切に保管されることをお勧めします。
ゲノムの検査後のフォローアップ
ゲノムの検査からわかること・わからないことゲノムの検査は、患者さんの遺伝子に検査対象の病気と関連する変異があるかどうかを調べるものです。塩基配列データ、ゲノムの変化と病気の関係をまとめたデータベース、国際的に認められたルール・基準などをもとに、ゲノム医療の専門家や診療を担当する医師などが話し合って、検査結果を総合的に判断します。その際、ゲノムの変化と病気との関連性は、現時点で判明している範囲の科学的な根拠に応じて3段階で示されます。
三つのうち、「3. 病的変異を認めた」が、病気と関連する変異が患者さんの遺伝子に見つかったという結果にあたります。
「2. 臨床的意義不明変異(VUS)を認めた」は、患者さんが検査を受けた時点ではゲノムの変化と病気との関連性がわからなかったことを意味します。しかし、ゲノムの変化と病気の関連の研究は、今も世界中で行われ、その技術は日々進歩しているため、研究の進展によっては将来、VUSと病気との関連性の有無がはっきりわかる可能性があります。
また、「1. 病的変異を認めない」の場合でも、遺伝性疾患の可能性がまったくないと証明されたことにはなりません。患者さんが検査を受けた遺伝子について、検査した時点で判明している知識の範囲内でのみ、該当するものが見つからなかったことを意味します。
- 1. 病的変異を認めない
病気との関連性:なし
現時点の解析技術や科学的根拠からわかる範囲では、病気と関連する遺伝子変異はみつからなかった- 2. 臨床的意義不明変異(VUS:variant of unknown significance)を認めた
病気との関連性:不明
現時点の解析技術や科学的根拠からわかる範囲では、判断不能- 3. 病的変異を認めた
病気との関連性:あり
ゲノムの検査を受けたからといって、ゲノムの変化が病気の原因であるかどうかは、必ずしも明確にわかるわけではないのですね。検査を受けた時点ではっきりしなくても、将来的にはっきりするならば知りたいです。
ゲノムの検査を受けた後は、結果が1.2.3.のいずれであっても、その結果に基づいて治療法・予防法が検討され、実行されます。ゲノムの検査の結果についてのフォローアップの具体例をご紹介します。
検査の結果、VUSが認められた場合には、とくにフォローアップが重要です。これは、上で述べたように、研究の進展によって将来、病気との関連性の有無が明らかになる可能性があるからです。
- 検査会社は、ゲノムの変化と病気の関係について、最新の研究情報を定期的に集めており、VUSだったある遺伝子変異が病気と関係することを知った。そこで、過去に同社の遺伝学的検査でその遺伝子変異が認められた患者さんの担当医にその情報を伝えた。担当医は、その患者さんの診療に影響すると考え、患者さんに連絡した。
- 患者さんが遺伝学的検査を受け、VUSが認められてから数年後に結婚し、妊娠を希望するようになった。妊娠前に、そのVUSが病気に関係するかどうかを知りたいと考え、当時の病院に連絡して遺伝カウンセリングを申し込んだ。
- 患者さんが遺伝学的検査を受けた当時、子供は未成年であったが、今年、成人となった。子供も遺伝学的検査を受けたほうがよいのか気になったので、当時の病院に連絡して遺伝カウンセリングを申し込んだ。
医療機関や検査会社におけるゲノムの検査のフォローアップへの対応方針は、通常、検査を受ける前の説明や遺伝カウンセリングの際に知ることができます。とはいえ、検査前には時間が限られており、決めなければならないことがたくさんあるので、検査後のフォローアップのことまで十分に考えられないかもしれません。その場合は、検査結果の説明を受ける際に改めて検討する機会がありますし、治療が落ち着いてから改めて遺伝カウンセリングを受けることも可能です。なお、フォローアップにかかる費用については、ゲノム医療の担当医の診察や遺伝カウンセリング時に確認してください。
フォローアップを病気の治療や予防に役立てるために一番大切なのは、患者さんの協力です。協力いただきたいことを表にまとめました。
- 検査を受ける前や受けた後の説明時に、フォローアップの必要性や方法についての説明を受け、その意義を理解しましょう。そして、自分から連絡したい場合の担当者・連絡先を聞きましょう。
- 患者さんには、知る権利も、知らないでいる権利もあります。病院からのフォローアップの連絡を希望するか聞かれた場合には、希望するか、しないか、自分の意見をはっきり伝えましょう。
- 一度フォローアップの連絡を希望しないと伝えた後でも、連絡がほしくなったときには申し出ることが可能です。反対に、希望すると伝えた後で連絡が不要になったときも同様です。希望が変わったときは担当者に連絡しましょう。
- 病院からの連絡がなくても、自分から連絡して検査結果に変更があったかどうかを確認することも可能です。どのような場合に自分から連絡したほうがよいのか、あらかじめ担当医に相談しておくとよいでしょう。
- 連絡先が変わったときは、担当者に連絡しましょう。